下町人情熱血ボクシング漫画からSF超人モノへ・・・リングにかけろの路線変更はよく言われるところですが、今回はこれについて少し書いてみようと思います。
まず路線変更は、特にリングにかけろに限ったことではなく、ドラゴンボールやキン肉マンなどの後の超人気作品も、実は当初の路線とは結構変わっていたりします。ブラック・エンジェルズに至っては、最初は現代版必殺仕事人テイストだったものが、最後は宇宙空間で闘っていましたしw こう考えると、はじめから人気があって、ずっとその路線で走り続けることのできる作品の方がむしろ少ないのかもしれません。

そして、全く人気が無ければ、路線変更もへったくれもなく10週で打ち切られてしまうわけなので、その意味では路線変更は「そこそこ人気のある漫画の特権」とも言えるのではないでしょうか。
しかし、そこそこの人気があるのに、さらなる大ヒットを求めて路線を変更するというのは、大きな賭けであるのは間違いなく、特に車田正美先生は失礼ながら当時はまだ売れっ子作家というほどでもなかったので、賭けに失敗すれば漫画家生命が絶たれてしまう可能性もあったわけで、そこは本当に大きな決断だったと思います。

ただまあ、路線変更をしたがために人気が急落し、あっという間に打ち切りになってしまったという作品はあまり覚えがないので、そのあたりはジャンプの編集さんはさすがだなぁと感服する次第です。
前置きが長くなりましたが、リングにかけろに話しを戻すと、この作品の路線変更が大成功した理由の一つは、少しずつ、ゆっくりと読者に違和感を与えないように移行を完了したことではないかと推測しています。
例えばチャンピオンカーニバルで初の必殺パンチが登場するわけですが、いきなりギャラクティカマグナムが炸裂して、パンチを食らった相手が体育館の窓ガラスをぶち破って場外に飛んでいったとしたら、あまりの急変ぶりに読者はドン引きしたと思うのですよね。しかし実際に登場したのはブーメランフックとローリングサンダーという「練習すれば何か自分にも打てそう」と思わせる、多少現実味を帯びたものでした。

そして、続く日米決戦編。死刑囚や暴走族のリーダー、催眠術師など、明らかにこれまでとは違う方向に進んでいるのですが、一応ボクシングの体は残しているところがミソですね。

剣崎戦ではホワイティが数十メートル宙に舞い上がっていて、そろそろ超人ボクシングの香りを見せ始めていますが、すぐ後の竜児VSシャフトで「左フックであるブーメランフックの方が右フックのブラックスクリューよりわずかながら早かった」という正統派ボクシング「ぽい」解説があって、一気に超人モノへと持って行かないわけです。このあたりの手口(?)は非常に巧妙ですねw

さらに影道編では「相手は一人とは限らない」「カイザーナックルやダイヤモンドナックル等の武器を装着」など、ここまで来るともはや完全にボクシングではなくなっているのですが、これまで徐々に慣らされてきたせいか、正直、少なくても私は、あまり違和感を感じなかったのでした 汗)

加えて「どんなパンチなのか何の説明も無くただパンチ名を叫ぶだけ」の影道雷神拳も登場。極めつけは、太陽の塔までおそらく数百メートルは吹っ飛んでいるであろう影道総帥・・・ここで路線変更はほぼ完了したと言っていいでしょう。

そして世界大会で作品の代名詞とも言えるスーパーブロー・ギャラクティカマグナムが登場し、ここにリングにかけろは単なるボクシング漫画を越えた全く新しい世界を確立したのだと思います。

「とうちゃん、かあちゃん、ねえちゃんの人情話でやってた頃は、やつもトロかったぜよ」とは、かのゴーマニズム宣言の小林よしのり先生によるコミックス第18巻の巻末寄稿です。たしかにこの路線変更によって読者アンケートの人気順位は急上昇し、「集英社ビルが改装できたのはリンかけ人気のおかげ」と言われるほどの人気作品に成長したのは間違いのないところでしょう。

ただ、リングにかけろが本当にすごいのは、これだけ大きな路線変更を行いながら、最後はキッチリと当初の目的だった「世界チャンピオンになる」という夢を叶えて物語を終わらせたことだと思うのです。そうでなければ単なる「とんでも漫画」として後世笑いのネタにしかならなかったかもしれませんし、あの感動のラストシーンがあったからこそ、連載開始から約半世紀が経過した今でも、多くの人の心に残る名作になり得たのだとしみじみと思います。

ということで、来年はリングにかけろ連載開始から50年という記念すべき年。本ブログも何か企画ものができればいいなあなどと考えておりますので、来年も「リンかけ!!」をよろしくお願いいたします。

