辻本戦

リングにかけろ1

リングにかけろが下町人情&正統派ボクシング漫画からSF超人モノへと路線変更したのは周知の通りですが、今回はその正統派ボクシング時代のハイライトとも言える辻本戦について取り上げてみたいと思います。

本題に入る前に少し触れておくと、実はこの路線変更ってすごく勇気のいることだったと思うのですよね。

ジャンプのアンケート至上主義は非常に有名で、人気が無ければ即打ち切りとなるわけですが、仮にも都大会決勝までの約2年間、正統派として連載を続けられたということは、そこそこ人気があったことの証明でもあるので、それを敢えて方向転換するのは一か八かの賭けだったのではないかと。

そしてさらにリングにかけろのすごいところは、とても大きな路線変更をしたにもかかわらず、それで読まなくなったというファンがほとんどいないことです。

例に出して恐縮ですが、同じジャンプの「ブラック・エンジェルズ」も当初の現代版必殺仕置人路線からSFモノへと舵を切ったクチですが、こちらは「途中からワケが分からなくなったので読まなくなった」という読者が一定数いるわけです。ところがリングにかけろにはそれが全くと言っていいくらいに無い。これは本当に奇跡的なことだと思います。

さて、前置きがかなり長くなりましたが本題の辻本です。実は辻本はかなり初期からいるキャラクターでして、初登場は聖華学院での剣崎と竜児の練習試合を観戦しに来た場面でしたが、この時はやたらギャアギャアと騒ぎ立て、剣崎や志那虎から雑魚扱いされるという典型的な咬ませ犬でしたw

ところが都大会での竜児との対戦前、腹に硬球が直撃してもビクともしない不死身の肉体を披露して、ただの雑魚キャラではないことをアピール。試合でも最初は竜児のパンチが幾多と無くヒットしますが、辻本には全く効かず、竜児は窮地に追い込まれます。

その中でセコンドの菊ちゃんが辻本の弱点を懸命に探すわけですが、いろいろと錯誤の結果、最終的に弱点はチン(アゴ)だということが判明。その理由は子どもの頃に父親から「当たり屋」をやらされていたからということでしたが、竜児、志那虎、辻本と、この作品の登場人物はみんな父親に苦労させられてますねw

ただ、チンが弱点だと分かったものの、アッパーカットを持たない竜児がそこを打つのは難しい。そこで菊ちゃんはコーラの空き缶を使ってストレートでチンを打つ方法を示唆します。これこそが、剣崎や志那虎をして菊ちゃんがボクシングの天才であることを知らしめたシーンでした。

結局、チンを砕かれて敗れた辻本の元に行方不明になっていた母親が現れ、これがまた涙を誘うのですが、いずれにせよこの辻本戦は、「ストレートさえあれば他に何もいらない」など、正統派ボクシング漫画の面白さが詰め込まれた本当に素晴らしい名勝負だったと思います。一見好戦的な辻本が最後に「もう憎しみもない相手を殴ることもない」と呟くのも個人的には非常に感動したシーンでした。

この試合はコミックス一巻分を丸々費やしているのですが、これはリングにかけろの中でも最長でして、以降の原則一週一試合とは隔世の感がありますねw 皆さんも機会があればぜひ再読していただきたいですが、電子版はかなりの分量がカットされているので、できればコミックス版がお勧めです。

ちなみに辻本は、最終話で竜児が世界チャンピオンになった際に、真っ先に声を上げていました。これも心憎い演出だったと思います。

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